PROJECT
あかねちゃんの糸をつくる





あかねちゃんは皆の憧れの的だった。
明るくて可愛くてお洒落で、
ちょっとおませな女の子。
あかねちゃんのまわりには、
いつもたくさんの友達がいた。
そんなあかねちゃんは私のことを
「大親友」と呼んで、
いつも一緒にいてくれた。
小学4年生の時、あかねちゃんを仲間外れにした。
この時期特有の、女の子のグループによるもの。
私はまわりの状況に流されてしまい、
あかねちゃんをひとりぼっちにさせてしまった。
数ヶ月後、
今度は私がグループから仲間外れにされた。
私にとって学校が辛くて苦しい場所に変わった。
その時あかねちゃんは
その女の子のグループの中にいて、
ひとりぼっちでいる私をずっと横目で見ていた。
私達がまだ小学2年生だった時のこと。
学校が終わった後、
あかねちゃんは私を綿畑に連れて行ってくれた。
「これが綿の木だよ」
とあかねちゃんは家の畑を指差しながら、
楽しそうに説明してくれた。
「ふわふわだね」と言って笑って、
二人で夢中になって綿花を摘んだ。
その翌日、
あかねちゃんは私に綿の種を渡してくれた。
シールやスタンプで
可愛くデコレーションされた紙に、
種を包んでくれた。
「春になったらまた植えてね」
とあかねちゃんは手紙と一緒に
種をプレゼントしてくれた。
あの時のあかねちゃんの笑顔を、
今でもよく覚えている。
あれから私達も大人になった。
「あの時はごめん」
その一言をかけるタイミングを逃したまま、
私達はここまで大きくなってしまった。
お互いがお互いのことを今でもずっと
気にかけていることは、何となく分かる。
それでも何をしても埋まらない溝があることを、
私達はよく理解している。
あの日、
あかねちゃんは綿の種をプレゼントしてくれた。
それを勉強机の中にしまって、大切に保管していた。
あの日のあかねちゃんとの記憶を
現在まで繋いでくれている種。
その種を今、20年越しに植えてみようと思った。
もしかしたら種は発芽しないかもしれない。
それでももし種から芽が出たら、
綿の種を何年も、何年もかけて増やして、
そうしてできた綿花を紡いで糸にしたい。
それはあかねちゃんとの綻びを繕うための糸。
その糸が出来上がったら、
あかねちゃんに会いに行こうと思う。
「糸」という漢字は
「撚ること」に由来してできている。
人と人との関係も糸に似ていて、
撚ったり、絡まったり、
解いてみたりしてできている。
時間がかかっても、元通りにならなくても、
私はあかねちゃんとまた一から関係を築きあげたい。
私はあかねちゃんのための糸をつくる。